2016年02月20日
を見せなさい
えらい剣幕である。男の担任教師は、文太を教室へ連れに来た。担任から話を聞いた文太はきっぱり否定した。
「そんなことはしていません」
翔平の父親の目を見据えて言った。父親は文太に殴りかかろうとしたが、担任が中に入り止めた。
「何かの間違いでしょう、高倉はそんな子ではありませんよ」
「現に息子が泣いて打ち明けている」
これは翔平の復讐らしいなと、文太は思った。担任は、「それでは、こうしましょう」と言った。
「翔平君にも来て貰いましょう」
職員室を出て行こうとする担任に、翔太の父は声を掛けた。
「今日は学校をやすんでいる筈だ」
「念の為に見て来ましょう」
担任は職員室を出て行った。翔平の父親は、憤懣やるかたない面もちではあったが、文太の毅然とした態度に圧倒されたのか、黙って担任を待った。文太は、担任の言葉が嬉しかった。今まで、学校の先生が自分を信じてくれたことはなかったからだ。
「翔平君は来ていませんが、クラスの子供達が来てくれました」
翔太の父親は、担任が他の生徒を連れてきたのが腑に落ちなかった。
「何の為に?」
「昨日、高倉が携帯を返したときの事を証言するためです」
三人の生徒が頷いた。
「高倉君が、あれだけだめだと言ったのに、何故こんなことをすると怒って翔平君に携帯を返していました」
「高倉君は、もう君とは口を利かないとも言っていました」
別の生徒も証言した。
「お父さん、常日頃お金を巻き上げていた生徒が、口を利かないなんて言いますかね」
「息子が金を出すのを断ったからだろう」
「それでは、すぐに知れてしまう携帯電話を買わせるなんてことをするでしょうか」
「なんでも良いから、警察を呼んでくれ、話はそれからだ」
「高倉君の将来がかかっています」
なんとか穏便にという担任を制して、文太が口を開いた。
「先生、僕は構いません。呼んで下さい」
「しかし…」
近くのビジネスフォンの受話器を取り、文太が110番に掛けて担任に受話器を渡した。
派出所の警察官が自転車で駆け付けてきた。文太は警官に財布と言われ、差し出した。中を調べていたが、財布の中にはポチ袋くらいの小さな封筒が入っているだけだった。
「これは?」
お巡りさんが訊いた。
「多分、お金だと思います」
「多分って?」
「まだ開けたことがないからです」
Posted by 吉は笑顔を引っ at 13:17│Comments(0)