2015年12月21日
にお仕置きにな
「済んまへん、お代官に会わせて貰えまへんやろか?」
亥之吉は腰を屈めて下手に出た。
「何の用だ」
「この度お縄になった勝蔵さんたち三人のことで、お耳に入れたいことがありまして」
「お前達の名は?」
「大坂の商人、福島屋亥之吉と、その倅、辰吉で御座います」
「暫くここで待て」
「へえ、待たせて頂きます」
一人の門番が屋敷内に入って行ったが、時経ずして戻ってきた。
「お代官は会われるそうだ、付いて来い」
「ご足労をお掛け致します」
お代官は、門番程も偉ぶることもなく、ただの好々爺然として亥之吉父子を迎えた。
「儂の耳に入れたいこととは、どのようなことですかな」
「勝蔵、作造、文吉の三人は無実です」
「ほう、実は儂も密告があり三人を捕らえたものの、どうしたものかと考えていたところだ」
亥之吉は、何者かに造り酒屋「横綱酒造」を乗っ取られようとしていること、その為に勝蔵、作造、彼等を助けてきた文吉を罪に陥れて亡き者にしようと企んでいることなどを、具(つぶさ)に申しのべた。
また、大坂で起きた相模屋での千両詐取事件、大坂の酒店主を詐欺に巻き込み、金を奪い絞め殺し、自殺に見せかけて死体を天井から吊るした一件、さらに酒店から詐取した銀貨とともに、店の金を奪って隠した件など、その繋がりを説明した。
「酒店の店主は、自殺とされていますが、自殺でない証拠があります」
亥之吉は、天井の梁に残された、店主が首を括ったであろうとされている縄に付いた血痕の訳も話した。
「首を締めた縄を使って、天井に吊るしたのだな」
「左様で御座います、相模屋で奪った銀も、酒店から奪った銀も、灘郷に持ち込まず、古店舗のどこかに隠しているのに違い有りません」
「では、勝蔵の家から見つかった銀も、文吉の家から見つかった銀も、こちらで犯人が用意したものなのか?」
「その通りだと考えます」
「わかった、では大坂の奉行所に使者を送って、まず酒店の家探しをして貰おう」
「あの店舗は、わたいが買うことにして手付(てつけ)を打っていますさかいに、存分に家探しをして貰ってください」
一つ、亥之吉の推理を付け加えた。
「古店舗の蔵に、幽霊が出ると噂を振りまいた者が居ます」
それは取りも直さず人々を蔵から遠ざけ、古店舗が売れないようにと考えた犯人の策だと考える。即ち、詐取した千両と、この酒店から奪った何某かの大金は、この蔵のどこかに隠されているに違いない。店主が蔵の床下か、壁に仕掛けを作っていたに違いないから、念入りに調べるように伝えてほしいと申し添えた。
「それから、お代官さま、補えられている勝蔵たちは拷問をしないで欲しいのです」
「すぐに解き放つことは出来ないが、そなたの証言に納得したから拷問はするまい」
「有難うございます」
偽装でよいので、捕らえた三人は唐丸籠で大坂の奉行所に連行されて、数日後ったと横綱酒造の人達に伝えてほしいと、これは真犯人を炙り出す手段になるので「是非お願いします」と代官に願い出ると、快諾してくれた。
Posted by 吉は笑顔を引っ at 12:43│Comments(0)