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2015年12月02日

りお侍さまが心配です

 
   
   「心太郎、心太郎は居るか」
 賢吉が叫んだので、奥方が出て来た。
   「何ですか騒がしい、心太郎なら今お勉強中です、勝手口から茶の間に回って待ってやってくださいな、お菓子がありますよ」
   「はーい」
 出されたのは京菓子の松露饅頭だった。甘いお菓子僱傭が大好きな賢吉の目は点になっていた。
 心太郎が勉強を終えて茶の間に入って来た。手には二本の木製十手と、木刀が握られている。
   「これは、父上が賢吉と私のために誂えた練習用の木製十手だ、私と捕縄術と十手術の形を練習しましょう」
 樫の木で作られていて、持つとずっしりと重い。それと、かなり使い込んだ古い木刀を一本手渡された。今までは心太郎と竹刀で練習していた剣道を、今日から木刀に持ち替えようというのだ。
   「わっ、嬉しい」
 賢吉は大喜びで木刀を撫でた。心太郎は、町の道場で習ったことや、父の清心に教わったことを、そのまま賢吉に教える。「人に教えることは、自分を磨く最良の鍛錬だ」とは、父長坂清心の言葉である。心太郎は、それを実行しているのだ。早速庭に出て、心太郎と賢吉の鍛錬が始まった。
   「もうすぐ日が暮れますよ、お重に煮物と小魚の佃煮を入れておきました、皆さんで召し上がりなさいな」
 食事の支度は、賢吉の役目である。今夜は飯を炊き、大根の味噌汁とお新香を切っておくだけで済んだ。
   「親父、お帰り、事件はどうなった?」
   「お前の言うとおり、浪人を雇って番頭を殺させたのは、成田屋銭衛門の甥、弥助だった」
 弥助は、銭衛門に跡継ぎが居ないので、自分が跡目を継ぐものとばかり思っていたのに、番頭の伊之助を養子にして跡目を相続させると聞き、逆上して犯行を企てたものらしい。
   「長坂様が褒めていたぞ」
   「褒美はないのかい?」
   「木製十手と木刀が褒美らしい」 父親、長次の使いで叔父の家まで行った帰り道、村道から少し逸れた脇道で若い侍が蹲っているのを賢吉は見つけて声をかけた。
   「お侍さん、お体の具合が悪いようですが、大丈夫ですか?」
 侍は、賢吉を見上げたが、黙って再び項を垂れた。
   「お駕籠を呼んできましょうか?」
 彼は黙ったまま、首を横に振った。
   「もしも、空腹を抱えておいでなら、一っ走り行って何か買って参りましょうか、それとも医者を呼んで参りましょうか」
 漸く、力のない声で「要らぬ」と言い、手で「あっちへ行け」と、手の甲を向けてあおった。
   「行けと仰るなら行きますが、やは、何なりと申し付けてくださいませんか」
 若い侍は、再び賢吉に顔を向けて、賢吉の顔を繁々と見上げた。最初は町人の子供だと侮ったが、賢吉のよく躾られたらしい丁寧な言葉使いに、少し心を開いたようであった。
「恥ずかしながら、拙者は金を持ち合わせておらぬ、駕籠に乗ること、も医者に掛かることも出来ぬのだ」  


Posted by 吉は笑顔を引っ at 15:26Comments(0)
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